施設の詳細(夢洲IRの施設構成)
大阪IRは、カジノ施設を含む統合型リゾートとしてホテル、国際会議場、展示場、劇場、商業エリアなど多彩な施設で構成されます。カジノ施設の延床面積は約6.5万㎡で、そのうち純粋なゲームエリア(カジノ行為区画)は全体の3%以内に制限されています。ホテルはテーマの異なる3つのブランド(MGM大阪、MGM大阪ヴィラ、MUSUBIホテル)で構成され、合計約2,500室もの客室数を備えます。国際会議場(MICE)施設も充実しており、最大6,000人以上収容の大会議室を含めた全会議室の収容人数は約1.2万人、展示施設の展示面積は約2万㎡に達します。さらに約3,500席の「夢洲シアター」を併設し、レストランや物販店などの商業エリア、伝統文化や食文化を発信する「関西ジャパンハウス」や「ジャパン・フードパビリオン」といった魅力増進施設も設けられる予定です。アクセス面では、大阪メトロ中央線の延伸(夢洲駅の新設)や大規模なバスターミナル、フェリーターミナルの整備によって、万博終了後も国内外から円滑に来訪できる交通インフラが整備されます。
経済効果(大阪IRの収益見通しと地域への影響)
大阪IRが開業すると想定される年間来訪者数は約2,000万人(国内1,400万人、海外600万人)にも上ります。これに伴う年間売上高は約5,200億円(カジノなどゲーミング収入:約4,200億円+非ゲーミング収入:約1,000億円)と見込まれています。初期投資額は約1兆2,700億円にも及び、大阪・関西の経済成長を牽引するプロジェクトと位置付けられています。経済波及効果は非常に大きく、運営段階で年間約1兆1,400億円の経済波及効果(近畿圏)を生むと試算されています。また雇用創出効果も顕著で、IR施設の直接の従業者数は約1万5千人に達し、関連産業も含めると年間約9万3千人分の雇用を生み出すとされています。さらにIR事業者から自治体へ納められる納付金・入場料収入は毎年約1,060億円(大阪府と大阪市で折半)に上り、これらは地域の福祉向上や観光・文化振興、ギャンブル依存症対策の財源として活用される計画です。
他地域のIR計画との比較
日本では大阪のほかにも長崎県や和歌山県、横浜市などがIR誘致計画を検討・発表していました。それぞれ施設規模や経済効果の想定に特徴があります。以下に主要な指標を比較表にまとめ、その後に各計画の概要を解説します。
主要IR計画の施設規模比較
計画地域・名称 | 開業予定 | 初期投資額 | 総延床面積 | カジノ延床面積 | ホテル客室数 | MICE施設規模 |
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大阪・夢洲 (MGM大阪IR) | 2029年秋~冬 | 約1兆2,700億円 | 約77万㎡ | 約6.5万㎡(3%以内) | 約2,500室 | 会議場収容計1.2万人、展示2万㎡ |
和歌山・マリーナシティ (和歌山IR) | 2027年秋ごろ | 約4,700億円 | 約70万㎡ | 約4.65万㎡ | 2,546室 | 大会議場6,134席+中小会議室等 |
長崎・ハウステンボス (長崎IR) | 2027年度内※ | 約3,500億円 | (用地約32ha=32万㎡) | 約2.34万㎡(ゲーミング15,000㎡) | 2,514室 | 国際会議場6,000人規模※ |
横浜・山下ふ頭 (横浜IR構想) | (計画中止)2020年代後半想定 | 最大約1兆3,000億円規模 | (敷地約47ha) | (IR全体の3%以下) | 2,700~4,800室想定 | 会議場+展示場計13.8万~19.2万㎡ |
※長崎IR計画は2023年時点で国の認定待ちであり、開業目標年は流動的です。また長崎のMICE施設規模は長崎県の基本構想上「最大6,000席規模の国際会議場」を想定しています。
主要IR計画の経済効果比較
計画地域 | 年間想定来訪者数 | 年間想定売上高 | 経済波及効果(運営) | 雇用創出(直接) |
---|---|---|---|---|
大阪IR | 約2,000万人 | 約5,200億円 | 約1兆1,400億円/年 | 約1万5千人 |
和歌山IR | 約1,300万人 | 約2,300億円 | 約3,100億円/年 | 約6,200人 |
長崎IR | 約673万人 | 約2,562億円 | 約3,279億円/年 | 約7,331人 |
横浜IR | 2,000万~4,000万人 | 4,500~7,400億円 | 6,300億~1兆円/年 | (未算定) |
※横浜IRの数値は横浜市が2019年公表した概算レンジ。横浜市は2021年にIR誘致を中止しています。
長崎IR計画(ハウステンボス)
長崎県佐世保市のハウステンボス隣接地を候補としたIR計画では、オーストリアのカジノ運営会社「カジノ・オーストリアインターナショナル(CAI)」が中心となるコンソーシアム「KYUSHU・長崎リゾーツ」が事業者に選定されました。施設構成は欧州の雰囲気を生かしたリゾートとなる計画で、高級ホテル(タワーホテル)や欧州老舗ブランドのホテルザッハー、カジュアルなタウンホテル、温泉旅館といった多彩な宿泊施設を合計2,514室整備するとしています。カジノ施設の延床面積は約23,438㎡で、このうち専らゲームに供されるエリアは15,000㎡(IR全施設面積の約2.38%)に抑えられます。MICEについては6,000人以上収容の国際会議場や展示施設を備える計画で、既存のハウステンボスと一体となった集客を図ります。初期投資額は約3,500億円規模とされ、年間来場者数約673万人、年間IR収入約2,562億円を見込むなど、地方型IRとして堅実な計画となっています。経済波及効果は運営段階で年約3,279億円、雇用創出は直接雇用約7,300人規模(関連産業も含め約2.8万人の誘発効果)と試算されています。長崎IR計画は2022年4月に国へ区域整備計画を申請済みですが、事業者の資金計画面で課題も指摘されており、2023年時点で国の認可待ちの状況です。
和歌山IR計画(和歌山マリーナシティ)
和歌山県和歌山市の人工島「和歌山マリーナシティ」に計画されたIR案は、カナダ系投資会社クレアベストグループ(Clairvest)と米シーザーズ・エンターテインメントなどが参画するコンソーシアムが事業者となり、ホテルには「シーザーズパレス」ブランドを誘致する構想でした。IR施設の総延床面積は約69.7万㎡(本棟:約55.9万㎡+MICE棟:約13.6万㎡)に達し、大阪計画に匹敵する規模の巨大施設を想定していました。宿泊施設は客室数2,546室でプール・スパ・ナイトクラブなど付帯設備も充実。MICE棟には6,134席収容の大会議場や多数の中小会議室、約2万㎡規模の多目的アリーナを備え、本棟には日本の伝統文化体験エリアや温浴施設、eスポーツセンター、先端医療センターなど多彩な来訪者滞在促進施設を盛り込みました。カジノ施設の延床面積は約46,500㎡とされていました。初期投資額は約4,700億円と見積もられ、年間来訪者数約1,300万人、年間売上約2,300億円(旅行消費額ベース)を想定。経済波及効果は運営段階で年間約3,100億円、直接雇用は約6,200人と試算されています。しかしこの和歌山IR計画は、資金調達計画への懸念などから和歌山県議会で十分な支持を得られず、2022年4月に国への申請を断念する結果となりました。現在は事実上計画が凍結されています。
横浜IR構想(山下ふ頭)
横浜市では2019年に林文子市長(当時)の下で山下ふ頭へのIR誘致方針が打ち出され、国内外の大手IR事業者が関心を示していました。横浜市が公表したイメージによれば、国際会議場・展示場計13.8万~19.2万㎡、ホテル客室数2,700~4,800室規模の施設を想定し、カジノのほかアリーナ、プール(水上アトラクション)、水族館、アートミュージアムなど多様な娯楽施設を備えた都市型リゾートを描いていました。想定来訪者数は年間2,000万~4,000万人と非常に大きなレンジが示され、IR区域内消費額(売上)は年間4,500億~7,400億円に達する可能性が試算されていました。建設による経済波及効果は7,500億~1兆2,000億円、開業後の年間経済波及効果も6,300億~1兆円に上るとされています。しかし一方で、市民世論はカジノ誘致への慎重・反対意見も強く、2021年の横浜市長選でIR反対を公約に掲げた山中竹春氏が当選したことで、横浜IR計画は白紙撤回されました。現在、山下ふ頭の再開発は別の方向性で検討が進められており、横浜にIRが建設される計画は停止しています。
参考文献・情報源
大阪府・大阪市の公式発表資料
国土交通省・観光庁の発表
長崎県のIR整備計画案
和歌山県のIR整備計画案
横浜市のIR誘致方針資料