まえがき
📱💬 日々のメッセージに欠かせない「絵文字」😊✨
「おはよう🌞」「ありがとう🙏」「疲れた〜😵💫」……そんな気持ちをほんの1つで伝えてくれる絵文字たち。
でも、その絵文字がどこで生まれ、どうやって世界共通の言語にまで進化したのか、知っていますか?🤔🌏
本記事では、絵文字の起源からUnicodeによる標準化、文化的な広がり、最新の制作プロセスまでをわかりやすく解説します。📘🔍
読み終えるころには、あなたの使う😊や👍に、少し違った意味が見えてくるかもしれません。
起源と発祥の歴史
「絵文字」は1990年代後半の日本の携帯電話文化の中で、テキストだけでは伝わりにくい感情を補う手段として誕生しました。世界で初めての本格的な絵文字セットは、1999年にNTTドコモのインターネットサービス「iモード」向けに、同社の社員である栗田穣崇氏によって設計された176個のピクトグラムから成りました。各アイコンは12×12ピクセルのグリッド上に描かれた極小のドット絵で、記号やピクトグラム、漫画で用いられる「漫符」といった要素が活かされた非常にシンプルで分かりやすいデザインでした。文章の末尾に絵文字をひとつ添えるだけで雰囲気ががらりと変わるため、短文が中心のデジタルコミュニケーションにおいて感情を伝える効果的な手段として多くの日本人に親しまれるようになりました。絵文字開発の着想には、1995年にドコモのポケベルで「ハート記号」を導入したところ女子高生を中心に大人気となり、後継機でハートを廃止した際にユーザー離れが起きたエピソードも影響しています。このような背景から生まれた絵文字の第一号セットはニューヨーク近代美術館(MoMA)にも収蔵され、デザインの歴史的一例として展示されています。
ドコモの成功を受けて、他社も追随しました。1997年には競合のJ-フォン(現ソフトバンク)からも独自の絵文字が投入されており、実はドコモより先行する試みも存在しました。しかしJ-フォンの端末は普及せず絵文字もあまり使われなかったため、広く認知されたのはやはり1999年のドコモの絵文字セットでした。その後は日本の主要携帯各社(ドコモ、J-フォン、au)が競うように絵文字機能を発展させていき、各社ごとに独自の絵文字が使われるようになります。ただ当時はキャリア間の互換性がなく、他社の携帯に絵文字入りメールを送ると正しく表示されないこともありました。2000年代に入ると携帯メール以外にも絵文字の活用範囲が広がり、2008年にはGoogleがウェブメールサービス(Gmail)に絵文字機能を搭載し、Appleも同年に発売した日本向けiPhoneで絵文字キーボードを提供しました。こうして「Emoji」という言葉自体が海外でも通用するほど、絵文字は日本発の文化から世界共通のコミュニケーションツールへと成長していきました。
技術的背景:エンコードとデバイス間共有
絵文字は一見「絵(画像)」に見えますが、その実体は文字コード上の一種の「文字」です。コンピュータやスマートフォンでは、すべての文字(記号類を含む)に固有のコードポイント(符号位置)が割り当てられており、絵文字も例外ではありません。世界的に使われている標準的な文字コード規格はUnicode(ユニコード)であり、2010年にリリースされたUnicode 6.0で初めて絵文字が本格的に収録されました。それ以前は日本の携帯各社がばらばらに独自拡張した絵文字コードを使っていましたが、Unicodeへの正式採用によって異なるデバイス間でも同じ絵文字コードが共有されるようになり、相互運用性が飛躍的に向上しました。例えば「U+1F600」は笑顔の絵文字、「U+1F44D」は親指を立てた👍の絵文字というように、Unicode上で統一された番号により各種の絵文字が定義されています。
しかし、絵文字の見た目はUnicodeによって厳密に規定されるものではありません。Unicode標準では絵文字の「意味(名称)」や「コード」は定められますが、そのビジュアルデザインは各プラットフォーム(Apple、Google、Microsoft、Twitterなど)の実装に委ねられています。その結果、同じコードポイントの絵文字でもフォントやOSによって描画が異なり、表情やニュアンスに違いが生じることがあります。例えば「口に手を当てている顔」の絵文字は、AppleやFacebookでは驚いてハッとした表情に描かれる一方、Googleやその他のプラットフォームではクスクスと笑っているようにも見えるデザインが提供されました。このため、あるユーザーがAppleの絵文字スタイルで「しまった!(しまった顔)」のつもりで送ったものが、相手のAndroid端末では「失敗を笑っているのだろうか?」と受け取られてしまう可能性があります。こうしたデザイン差による誤解のリスクは、絵文字コミュニケーションの技術的課題の一つです。また、新しい絵文字が追加された際には古いOSやフォント環境では対応しておらず、□や「〓」のような豆腐(表示不能文字)になってしまうケースもあります。この互換性の問題から、特に重要な内容で絵文字を多用する際には相手の環境を考慮することが推奨されています。
文化的変遷:普及・用途と意味の変化
携帯メールからスマートフォンのメッセージアプリ、SNSへと広がった絵文字は、今や世界中で日常的に利用されています。2010年代中頃には絵文字は現代の新たな共通語とも言える存在感を示し、2015年には英オックスフォード辞典の「今年の言葉」に涙を流して笑う顔😂(Face with Tears of Joy)の絵文字が選ばれる出来事もありました。また米国では2016年時点で「毎日絵文字を使う」という人が全体の74%にも上ったとの調査もあり、絵文字が文章に欠かせない潤滑油として広い世代に浸透していることが窺えます。SNS上では文章を一切使わず絵文字の連列だけで意思疎通を図るケースも見られるなど、絵文字は文字と言葉の役割の一部を担うまでになりました。
もっとも、絵文字の使われ方や解釈は国や文化圏によって様々です。たとえば一見同じジェスチャーでも、文化の違いで意味合いが変わることがあります。典型的なのは手のひらを上に向けて横に出す「あごに手を添える女性」の絵文字 (💁♀️) で、日本では案内係が「こちらへどうぞ」と示す所作として受け取られますが、英語圏では女性が髪をかき上げる仕草から転じて「どうでもいい(無関心)」というニュアンスで使われることが多いようです。このように絵文字の意味は使用者コミュニティによって変容し得るため、送り手と受け手の間でギャップが生じる可能性があります。実際、ユーザー自身が創意工夫で絵文字に新たな意味を持たせる例も数多く見られます。桃の絵文字 (🍑) は元々フルーツの桃ですが、その見た目から英語圏のスラングでは臀部(おしり)を指す隠語として定着しました。また若年層の間では、従来「大笑い」を意味する😂の代わりに頭蓋骨の絵文字 (💀) を使って「笑い死に」を表現するようなネットミームも登場しています。絵文字の解釈は時代とともに変化し、世代差や文化圏の違いによる絵文字の多義性が生まれているのです。
絵文字文化の広がりに伴い、そのラインナップも多様化してきました。初期の絵文字は笑顔やハート、天気や乗り物など比較的限られたカテゴリでしたが、ユーザー層の拡大とともにより多様な事柄やアイデンティティを反映することが求められるようになりました。近年では男女の性別違いバリエーションや家族の形態バリエーション、LGBTQ+を象徴する虹の旗🏳️🌈、宗教・文化的シンボル(例:ヒジャブをかぶった女性🧕)などが次々に追加されています。中でも2015年のUnicode 8.0では人の絵文字に肌の色のバリエーションを持たせるための5種類のスキントーン修正記号が導入され、大きな話題を呼びました。従来、例えば🙏(両手を合わせた手)が自分と異なる肌色で表示されることに違和感を持つユーザーもいましたが、スキントーン対応後は各自の肌色に近い手🧑🏽🤝🧑🏻などを選択できるようになり、絵文字がよりインクルーシブ(包括的)な表現手段へと進化しています。このような多様性の尊重は、絵文字が単なる飾りではなく文化や社会を反映するメディアとして重要視されるようになったことを示しています。
現在の制作・標準化体制
新しい絵文字の追加や標準化は、非営利団体であるUnicodeコンソーシアム(本部:米国)が統括しています。Unicodeコンソーシアムは世界中の文字コード標準を策定・維持する組織で、AppleやGoogle、Microsoft、Adobeといった主要IT企業が投票権を持つ会員として参加しており、その中に絵文字に特化した「絵文字小委員会 (Emoji Subcommittee)」が設けられています。この小委員会が新規絵文字の提案を審議し、Unicode技術委員会 (UTC) 本体に追加の是非を勧告する仕組みになっています。絵文字小委員会の現在の議長はGoogleで絵文字企画を率いるジェニファー・ダニエル氏であり、Unicodeコンソーシアム全体の会長を務めるマーク・デイヴィス氏(Unicode共同創設者)は長年絵文字標準化を主導してきました。このように各プラットフォームの代表者や有志専門家が国際協調のもとで絵文字の選定作業に当たっており、絵文字の標準化は基本的にボランタリーベースの合議制によって進められています。
新しい絵文字の提案は一般のユーザーや企業を問わず誰でも行うことができます。Unicodeコンソーシアムは公式サイトで提案のためのガイドラインと申請フォームを公開しており、毎年定められた期間中に新規絵文字案を受け付けています。提案者は所定の書式に従い、提案する絵文字の名称や意図、利用シーンの想定、他言語への汎用性、需要の裏付けデータ(検索ボリューム等)などを詳細に記述しなければなりません。また実際の絵文字の参考画像(カラーバージョンと白黒バージョン)が必要で、オリジナルデザインを提出するかパブリックドメインの画像を用意することが求められます。提出された提案は絵文字小委員会で精査され、有望なものは審査を経てUTCへと諮られますが、この審査プロセスは非常に慎重かつ時間を要するものです。提案から実際に承認・標準化され、各社の端末で使えるようになるまでには1~2年程度かかることも珍しくなく、提案者は長い審査待ちと多くの書類作業に直面することになります。
Unicodeコンソーシアムは、新規採用する絵文字を判断するにあたり、考慮すべき要素を「採用する理由」と「除外する理由」の2つのカテゴリに分類しています。提案が承認されるためには、主に次のようなポイントで高い評価を得る必要があります。
採用が望ましいとされる理由: 絵文字として直感的かつ視覚的にわかりやすい題材であること(視認性・象徴性)。多様な利用シーンが想定でき、既存の絵文字では表現が難しい新規性のある概念であること(汎用性・独自性)。検索エンジンの頻度分析などで十分な使用需要が見込まれること(需要の裏付け)。既存の絵文字との組み合わせでは表せない意味やニュアンスを提供すること(例:既存の組み合わせでは代替不可)。
除外(不採用)となる主な理由: 既存の絵文字や組み合わせで代用可能な提案である場合(冗長な追加は避ける)。一時的なブームや流行語に依存し、数年で廃れる恐れがある題材(時限的・流行依存)。特定の人物・キャラクター、企業ロゴ、宗教上の神祇など固有名詞的な対象を含むもの(Unicodeでは公序良俗上許容されない)。意味が狭すぎて日常での使用場面が限定されるもの(利用範囲が極端に限定的)などです。また、提案内容が既存の絵文字と重複していないか、過去に却下された同様の案がないかも確認されます。仮に以前却下された案と同じ内容の場合、再提案には前回の審査から2年以上空ける必要があるという運用ルールもあります。
以上の基準を満たし、かつ絵文字小委員会とUTCでの合議を経て承認された案のみが正式にUnicodeに収録され、新しい絵文字として晴れてデビューすることになります。承認された絵文字はUnicodeの次期バージョンに盛り込まれ、そのUnicode仕様が公開された後、各プラットフォームのベンダー(AppleやGoogleなど)が自社スタイルのデザインを起こして実装を行います。ユーザーはOSやアプリのアップデートを通じて新絵文字を利用可能になります。例えば2021年に公開されたUnicode 14.0では37種類の新絵文字が追加され、各社が順次対応を行いました。その中には「溶ける顔」や「妊娠した男性」の絵文字など、時代のニーズを反映したユニークなものが含まれています。
現在までにUnicodeに収録された絵文字の総数は約3,790種類(異なる肌色や性別バリエーションを含むシーケンスを全て合計)に達しており、1999年当初の176種類と比べて飛躍的な増加を遂げています。その背景には、絵文字がグローバルな共通言語として定着する中で、人々の多様な経験や文化を映し出す新たなシンボルを求める声が高まってきたことがあります。絵文字提案を支援する市民団体「Emojination(エモジネーション)」による草の根運動なども登場し、例えば東洋の料理である餃子🥟やイスラム教徒のヒジャブ姿の女性🧕など、従来欧米中心だった絵文字に多文化的視点を取り入れる働きかけも行われました。絵文字の制作・標準化体制は年々開かれつつあり、世界中のユーザーの声を反映しながら進化を続けているのです。
📝✨ あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました🙇♂️💬
絵文字はただの飾りではなく、文化、技術、そして人の想いが詰まった現代の「言葉」です🌐💡
📅 毎年のように新しい絵文字が追加され、今も進化し続けています。
何気なく使っていた😊や🙏も、背景を知ることで、より深く楽しめるようになりますね🎨📖
これからも、新しい絵文字たちがあなたの感情や思考を豊かに彩ってくれますように🌈💬
参考文献・出典
- Weblabクリエイターブログ: 日本発祥「Emoji(絵文字)」の歴史と使用上の注意
- The Verge: How emoji conquered the world(絵文字誕生の背景と栗田氏の証言)
- Wikipedia英語版: Emoji(歴史・Unicode導入)
- Los Angeles Times: Meet the shadowy overlords who approve emojis(Unicode会長Mark Davis氏インタビュー)
- Emojipediaブログ: Meet the new Chair of the Unicode Emoji Subcommittee(Unicode絵文字小委員会の構成)
- WIRED日本語版: 新しい絵文字」の提案申請のテクニックと条件(Unicode提案プロセスと基準)
- Emojipedia: FAQ(絵文字総数や実装方法に関するデータ)
- PBS News / Oxford Languages: Word of the Year 2015 is an emoji(絵文字が「今年の言葉」選出)